研究会便り

「食育が健全な人格をつくる」
盛岡スコーレ高等学校校長 
岩手食文化研究会副代表  宮本 義孝


地獄谷のサルの話

皆さんは、テレビコマーシャルで、サルが気持よさそうに温泉に浸かっている映像を見たことがありませんか。
  あれは、長野県の湯田中温泉の少し奥に地獄谷という所があるんです。そこにいる野生のサルです。このサルは、東京オリンピックが始まるちょっと前ですけれども、昭和38年以降、餌付けに成功したんですね。
  そこには4人の係員がいまして、80数頭のサルですが、1日に2回、餌としてリンゴとか麦とか豆を与えているわけです。
  リンゴは、青森県が有名です。けれど、長野県も特産なんです。そういうのを餌に与えているんですが、昭和45年、1970年ですね、この年には12頭のサルが生まれたんですが、そのうちの半分、6頭が奇形だったんです。
  その前から、奇形のサルは少しは出ていたんですが、この年には半分のサルが奇形で生まれたということが驚きだったんです。そこで、何が原因か、いろいろ調査したんですね。その結果、麦とか豆とかには異常はなかったが、リンゴに問題があったのです。
  農薬については、世間でもその後かなり議論されるようになりましたから、今は、さほどではないと思うんですが、当時のリンゴについては、青森県のリンゴ試験場のマニュアル、指導要綱には、リンゴができるまでには29回も消毒をする、そういうふうに書かれているんです。長野県のリンゴもだいたい似たようなものなんですね。
  私たちがリンゴを食べる時には、洗ったり皮をむいたりしますが、サルにはそんなことをしませんよね。与える時はリンゴを四つに割って、それを撒き散らすわけなんです。そのリンゴを食べていて農薬が母親の体内にたまっていったとうわけです。
  その話を聞いた時、私はにわかには信用できませんでした。ところがその前後に、NHKがサリドマイド児のような両手のないサルのことをドキュメントで放送したんです。
  この番組は、長野の春夏秋冬、移ろいゆく自然の中で、手のないサルが一生懸命生きていく、そういうけなげさがテーマでしたが、ああ、これも農薬のせいだったのかなと思われ、その話を少し信憑性を持って受け止めることができたんです。

人間の赤ん坊の場合

 ところがその後、さらにショックな話を耳にしました。翌年の夏休みに、在京卒業生激励会というのがあったんです。東京で就職した生徒たちがいます。その生徒たちを励ます会です。
  夏休みになると、私らは職場開拓でいろんなところを回るんですけれど、その最後の日に、東大の農学部の近くにある三井銀行の弥生倶楽部という施設をお借りして、東京の卒業生たちを集めて、学校の様子を報告したり生徒の近況を聞いたり、そういう集まりがあったんです。
  最初はセレモニーで、そのうちに、私たちはビール、生徒たちはジュースを飲んだりして打ち解けてくると、それぞれ近況報告をします。
  そんな時に、東京のある産婦人科医院に勤めた生徒が、私の側に寄って来て、「先生、怖いものを見た」と言うんですよ。どういうことかって聞いたら、この三か月の間に生まれてきた子どものことなんですが、一人は、頭は普通の赤ん坊と変わらないんですが、体がね、ぼろ雑巾のように萎えて、だらっとくっついている子どもが生まれてきたというんです。生まれて間もなく、その子は死んでしまったそうです。
  それから、もう一人は、真っ黒な子どもでね、お腹が「餓鬼草子」の中の餓鬼ように巨大な風船のように膨らんだ子どもが生まれたというんです。その子はかなり元気だったんですが、この子も間もなく亡くなりました。
  生まれてくる子どもにそんな赤ん坊がいるとは思ってもみなかっただけに、それは大変なショックだったんです。三か月の間にそういうことが2件あったそうです。
  私はもともと国語の教師で、「食」というのには、それほど関心はなかったんですが、そういうことが立てつづけにあったもんですから、やはり、教育を考える時には、子どもたちの命を守る、そういう知識も必要だろうなということで、少しは「食」のことを勉強するようになったのです。
  この間、私が勤めている学校に、止揚学園の理事長さんをなさっている福井光子さんが来られて、生徒たちに90分ほど話をしてくれましたが、その時、福井さんは「皆さん方は、赤ん坊に、どのくらいの確率で障害児が生まれると思いますか」と質問をしたんです。
それは、100人赤ん坊が生まれますと、ある人は3人、ある人は7人、ある人は11人と言います。これは障害を見る見方に差があるからなんです。傍から見てて、誰にでも障害があると分かるような人が3パーセント、100人のうち3人いるんです。それから傍から見ていては感じないが、でも内臓に疾患があるとか、いろいろな病気を持っているとか、そういう子どもたちが7人あるいは11人いるということなんですね。
この原因は、かなり高い確率で親の食べ物が影響しているといわれています。
先ほどサルの話をしたんですけど、その頃の毎日新聞にですね、正確に言うと1974年6月28日付の新聞ですが、その新聞には、平山・木村両博士の共同調査が載っていたんです。人間には死んで生まれてくる赤ん坊がいますが、その死産児の先天異常が、先生方が調査した20年前に比較しますと12倍にも達しているというんです。
で、今、話したようなことをいろいろ重ね合わせてみると、われわれの社会の中では、食が原因で大変な事態が起こっているということが理解できるかと思うんです。ただね、地獄谷のサルと違って、人間社会では、あまりこのことが深刻化していない。それは、現在、医療器具が発達していて、それで、お母さんのお腹の中にいる時に、もう、赤ん坊に障害があるかないかが分かるんです。
そんな時、お医者さんは「産みますか」って聞くんですね。「産みたい」って言うお母さんもいます。けれどほとんどのお母さんは、やはり自信がないんです。それで流産っていうことになるんです。そういうふうにして、人間の場合は、目に見えないところで淘汰されていくことがあるんです。でも、検査を受けなかったり検査を受けていても、障害がはっきりつかめないで生まれてくる子どもがいます。そういう時は、先ほどの卒業生の話ではないんですが、お乳を与えないで自然死を待つ。決して表沙汰にできることではありませんけれども。 
でもね、明らかに障害がある、あるいは、いろんなところに障害を持った子どもというのが10パーセントぐらいはいるんだということ、そういう意味で、私たちは「食」については、もっと敏感にならなければいけないんじゃないかと思うんです。

●小泉教授の話から→