研究会便り

「食育が健全な人格をつくる」
盛岡スコーレ高等学校校長 
岩手食文化研究会副代表  宮本 義孝


グローバルな問題としての食

そろそろ、私に与えられた時間も終わりに近づいてきました。「食」について、もうひとつ大事な問題を話します。それは、「食」というと、身近で家庭的な問題だと思われがちですが、実は、とても、大きな問題を抱えているということです。

1999年1月24日のNHKです。「世紀を超えて」というスペシャル番組が放送された時、1頭の牛の話が出てきたんです。「一頭の牛が食卓を変えた」って、そういう番組なんです。牛肉は今、高級な肉に思われていますが、私らが子どもの頃は、牛肉は筋があって硬くてね、煮込みにするのが普通だったんです。今はそうじゃないでしょ。前沢牛にしたって、肉が柔らかくって、香りがあって、ステーキで食べたりします。

こういう味のよい肉は、草ではだめなんです。草だとそんなふうにはならない。それで、改良して、アンガスっていう黒い牛なんですが、その牛の肉は、脂肪を含んで柔らかいんです。脂肪が肉の中ににじみ出ている。簡単に言えば、成人病にかかった牛の肉なんです(笑)。

で、こういう肉を作るためには、草ではなく大豆とか大豆滓とかトウモロコシなどの穀物を食べさせなければいけない。それでね、1キロ太らせるには、その8倍のトウモロコシや大豆が必要なんです。で、この8倍という数字に注意してください。お寿司屋に行くと、ハマチがありますね。高級魚です。今は養殖されていますが、あのハマチを育てるために、餌になるアジやイワシが10倍かかるんです。エビの場合も、養殖だったら8倍から約10倍ぐらいの餌をやらなければいけないんです。

だから、牛1頭育てるためには、その8倍の穀物を食べさせているわけです。アメリカではこれを2年間で出荷するんですが、日本のあの霜降りの場合、これをさらにまた穀物で飼育するんです。このようにして脂肪が余分に入り込む肉を作るんです。世界のトウモロコシの総生産量はおよそ6億トンなんですけど、そのうちの4億トンが家畜の飼料に使われているんです。残りの2億トンが、タポスだとかトルビンジャとか、主食が米でない地域で食べられるんですね。

で、世界人口が、今はもう60億を超えていますけれど、当時は58億人でした。そのうちの8億人が、今飢えで苦しんでいるんです。その飢えを救うためには10パーセントの、この家畜に与えている大豆とかトウモロコシを人間に回せば、それがほぼ可能になるという。そのためには、肉の生産を5パーセント減らす必要がある。飼料を人間に回さなければいけないから。でも、これもアメリカと日本が、5回に1回、摂っている肉の料理を減らせばできるということです。理屈ではね。

ところが、これが難しいんです。肉を食べ馴れている今の若い人たちにはなかなか止められないんです。なぜかって言いますと、例えば、マクドナルドという店がありますね。そこのハンバーガーが美味しいのは、中のハンバーグが100パーセント牛肉だからなんです。そして、マクドナルドの商法は、12歳がターゲット。12歳までの子どもに徹底してそれを食べさせる。そうすると、12歳までに覚えた味は一生その子につきまとうんです。つまり、「お袋の味」なんです。いつまでたっても子どもは、お母さんの手づくりの味が忘れられません。と、同じように、肉を食べ馴れた人間は、簡単にはそれを止められないんです。

先ほど、主催者側の挨拶の中で、今、日本の食糧輸入には、アメリカの圧力がいろいろかかってきているというような話があったんですけれど、外交面で日本がアメリカに弱いのは、穀物の90パーセントをアメリカに頼っているからなんです。

以前、ソ連がアフガニスタンを侵攻した時に、アメリカはソ連に出す穀物を抑えたんです。それで、揺さぶりをかけたんです。仮に、同じことをやられれば、日本はお手上げなんです。

だから、今の戦争は、何も飛行機を飛ばしたり戦車を走らせたりするだけじゃない。これからの戦争は武器だけじゃないんです。従って、自給できない日本っていう国は、非常に弱い国なんですよ。


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