研究会便り

「食育が健全な人格をつくる」
盛岡スコーレ高等学校校長 
岩手食文化研究会副代表  宮本 義孝


終わりに

さて、それでは最後に、これまで話したことの総ざらいとして、エビで私の話を終わることにします。

なぜエビかというと、日本人はエビが大好きでしょう。一人平均で1年間に70匹は食べているんですよ。そのうちの9割は輸入なんですが。

ある時、村井吉敬という方が、アラフラ海でエビ漁に出る木造トロール船に同乗したんだそうです。1時間ほど網を曳いたらエビが3キロほど揚がったんですが、キンメダイのような赤い魚も数10尾一緒に捕れたっていうんです。そのほかにも、いろんな雑魚や、ワタリガニ、イカも捕れたんだそうです。ところが問題はエビでしょう。日本人はエビが好きだから、エビでなければお金にならないから、それでエビと赤い魚を残して、あとは全部海に捨てたそうです。ほかのものも食べられるんです。だけど、お金にならなければ捕っても捨てる。資源の無駄になりますね。一般的にトロールにかかる雑魚は、重さがエビの7倍から10倍もあるそうです。これが海に棄てられてしまうのだそうです。そして、大型のトロール船が操業した後は海藻も生えない。海底がツルツルになるくらい底ざらいがされるんだそうです。

それから、輸入されるエビには海水汚染の問題があります。エビはいろんなところで養殖されているんですけど、例えば、今、台湾の高雄は巨大な工業地帯で、その工場排水が海を汚しています。この汚れた海水が稚エビ養殖場や養殖地の水に利用されています。日本では、水俣病などのような歴史があるから工場排水は管理されていますけど、他所ではそういうことがありません。よっぽど注意しないと危険なんです。

次ぎに、エビは世界の至る処から日本に輸入されてきますが、生きものですから時間がたてば変色したりします。それを防ぐため、例えば、フィリピンのブラックタイガーは、黒変防止のためポリピン酸をはじめとした漂白剤が使われているそうです。インドネシアとかオーストラリアとか、台湾、南インドのエビも、水洗いしたり凍らせたりする時の水に、同じように塩素剤が添加されるんです。これについて、関係者は否定していますけどね。

日本人はエビが好きで、エビを日本に送れば儲かるわけだから、それで、今、養殖ブームが東南アジアで始まっています。そのため熱帯漁業資源の宝庫であるマングローブがどんどん壊されています。この間の大津波、マングローブのあるところは波の浸入をくい止めたんですね。マングローブが自然の防潮堤の働きをしたんです。そういう自然破壊もあるわけです。そして養殖のエビは、例えばクルマエビを1キロ生産するために、餌としての魚介類だけで5.2キロ、そのほかの配合飼料を加えると、9.2キロの餌が必要になります。

アメリカ人も日本人もそうなんですが、贅沢に慣れていて、できるだけ美味しいものを食べたいと思います。だけど、その美味しいものをつくるために10倍近い資源が餌として使われるのです。いったん贅沢するとわれわれはなかなか後戻りはできないものなんですね。

こうやってエビひとつ取り上げてみても、いろいろ考えていかなければならない問題があります。

これで私の話は終わりです。が、この後、午後からは、四つの分科会に分かれて、また話し合いがなされるそうですね。これまでの私の話、そういう話し合いのきっかけになればと思っています。

そして、私の話、まだで充分言いつくされていないところもありますが、そこのところは、これからの分科会で皆さん方自身によって補っていただければありがたいと思います。

ご清聴、どうもありがとうございました。(拍手)


<注>
地獄谷のサルの話は、キリスト教独立伝道者高橋三郎氏が1977年4月28日、向中野学園高等学校(現盛岡スコーレ高等学校)で、「あなたの行くへ」と題して話をされたもの。後、「ほんとうの生き方」(教文館1979年5月)に収められた。
止揚学園理事長福井光子さんに話は、1992年7月16日「心にひびきのつたわりを」と題して、向中野学園高等学校の生徒に話されたもの、この時の話は、生教研シリーズ?として、翌年5月向中野学園生活教育研究所から発行された。
 東京農業大学教授小泉武夫氏の話は、2004年10月28日、福島県郡山市で行われた第52回全国私学教育研究集会で、記念講演「真の食育とは何か」と題して話されたもの。
 名古屋大学法学部教授森秀樹氏の本とは、「国際協力と平和を考える50話」(岩波ジュニア新書2004年2月)のことである。
 広島県の教職員組合と厚生省の国民栄養調査のことは、1998年10月23日付朝日新聞の社説「子供の食事に関心を」で取り上げられている。  巨人軍工藤公康投手のことは、2004年8月29日付読売新聞のコラム「編集手帳」が紹介している。アンガスという牛のことは、NHKスペシャル「世紀を越えて<食糧>」第一集「一頭の牛が食卓を変えた」(1999年1月24日放送)が取り上げたもの。
 養殖ハマチのことは、慶応義塾大学名誉教授鈴木孝夫氏の「人にはどれだけの物が必要か」(中公文庫1999年7月)に記されてある。
 エビの話については、上智大学外国語学部教授・同アジア文化研究所所員村井吉敬氏の「エビと日本人」(岩波新書1988年4月)から、内容を抽出させていただいた。


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